雑誌のPDF配信

小学館サライによる著作権侵害裁判」のきっかけとなったのは、当時の副編集長・O.J.氏から2002年12月に送付された写真使用契約書

 

その写真使用契約書には責任者として、当時の小学館情報誌編集局チーフプロデューサー・岩本敏氏の名前が記されている。

その岩本氏は2006年2月1日に開催されたPAGE2006の基調講演で著作権について注目すべき発言をしている。(公の場で講演を行っているため、あえて実名を記す)

「コンテンツビジネス戦略の現在」と題された岩本敏・小学館ネットメディアセンター執行役員兼室長(当時の肩書き)の発言は以下の通り。

「印刷されている雑誌と同じものがネット上でPDFデータとして見ることの出来るシステムが今年日本に登場するが、公衆送信権、著作権と著作隣接権の両方をほとんどの出版社が持っているアメリカと違って日本の出版社の場合には公衆送信権など、そこまで大きな権利をもっていないので壁がある。印刷会社に渡すデータと同じものを渡すだけで電子上の配信が出来てしまうため、出版社にとってこのシステムが魅力的に写る。」

この発言は見逃すことが出来ない。「写真使用契約書」を送付した岩本氏はネット配信の妨げになるのは公衆送信権と著作権だと公の場で発言しているのである。

加えて「写真使用契約書」の中で注視しなければいけないのは、同契約書第7条2 IIIで、「甲乙協議のうえ貸出料を徴収しないものについては、甲への謝礼は支払わないこととする。」とする部分。

乙から仕事をいただく立場の写真家と仕事を出す立場の出版社とが対等の立場で協議が出来る可能性は低い。なぜなら、仕事を出す出さないの決定は出版社の裁量に委ねられているからである。

事実、この「写真使用契約書」自体についても、本来は当事者同士で条件、文面について話し合い取り決めなければならないにもかかわらず、サライ編集部から突然提示され意見を求められることなく「署名、捺印」だけを求められたものであるから、貸出料についても対等に協議が出来るとは信じがたい。

被告雑誌のPDFによるネット配信が第三者を通じて行なわれ、サライ編集部が「貸出料を徴収しない」と決定した場合、謝礼が支払われない可能性が極めて高い。

出版社はといえば、配信会社へ無料で提供するものの、雑誌の広告収入とは別のネット広告料が入るというおいしい話。

以上のことから、「写真使用契約書」に記されている「サライに掲載された写真を社内・社外で有効活用する目的」とは、ネット配信をも視野に入れた契約であったことは間違いないだろう。