美々川・ウトナイ湖の自然

投稿日: カテゴリー: 出版動物千歳川放水路環境苫東開発野鳥雑誌

asahi_graph_s.jpgアサヒグラフ「検証・千歳川放水路計画」1993年6月11日 発行:朝日新聞社
文:大畑孝二(おおはた・こうじ)

美々川・ウトナイ湖は自然の宝庫
 かつて勇払原野は、釧路湿原に匹敵する広大な湿原地帯でした。人はこれを「不毛の大地」と呼び厄介者扱いしてきました。開拓の鍬が原野に入り、厳しい環境での農地造成、そして苫小牧東部大規模工業開発の舞台となり湿原は乾いていきました。こうして開発が進む中、美々川とウトナイ湖は、かつての勇払原野の面影を残す、唯一の場所となってしまったのです。

 春3月には数万羽のガン、カモ、ハクチョウの仲間が渡りの中継地としてウトナイ湖を利用します。日本を代表する重要な水鳥の中継地として1991年にラムサール条約の登録湿地にもなりました。

  繁殖期の5~7月は東南アジアから渡って来るシマアオジ、ノゴマなど原野の鳥がすばらしい喉を披露してくれます。カッコウが姿を見せる5月20日前後、勇払原野を代表するハスカップ(クロミノウグイスカグラ)が黄色い可憐な花を咲かせます。7月には実が熟し、鳥たちの餌ともなります。8月には既に北国で繁殖を終えたシギやチドリの仲間が浅瀬に群れてきます。9月にはマガンの第一陣が姿を見せ、原野の花の終りを告げるエゾリンドウがあちこちで咲き、秋は深まっていきます。冬は、オジロワシ、オオワシがその勇壮な姿で私たちを楽しませてくれます。運がいいとキタキツネやイイズナに出会えるかもしれません。四季折々に自然のドラマが繰広げられるのです。いままでに、253種の野鳥の記録があり、これは日本での観察記録の約半数で全国でも有数の場所です。

  ウトナイ湖は、約6000年前、縄文海進と呼ばれる海が内陸まで入り込んでいた地域で、その後地球が寒冷化に向うとともに海の後退が始り、沿岸流が作った砂州や砂丘が発達し、ウトナイ湖の南部を閉じ海跡湖として出来上ったといわれています。その間、恵庭岳、樽前山が噴火をくり返し、火山灰がそれぞれ何層にも堆積しています。今も、湖底は火山礫が露出し、南東部には火山砂による内陸砂丘を見ることが出来ます。こうした成り立ちを証明するかのように、海岸の植物であるハマナス、ウンランや高山性のウラジロタデ、ミヤマハナゴケが砂丘列で見られサワギキョウ、トキソウなど湿地性の植物が咲き、私たちの目を楽しませてくれます。

 昆虫は、現在までに約3800種が記録され、非常に豊富なところといわれています。そして、ウトナイ湖周辺は寒冷地系昆虫と温帯系昆虫の境界に位置していることも特徴の一つです。寒冷地系昆虫の南限として氷河時代の生残りともいわれるイイジマルリボシヤンマやセスジアカガネオサムシ、温暖系昆虫の北限としてはコバネササキリ、ツマグロイナゴモドキ等が見つかっています。ウトナイ湖周辺は湿原、砂丘という特殊環境にしか見られない多数の珍奇種を含む、道央に残された最後の昆虫の聖域と言えます。
 こうしたウトナイ湖には3本の川が入っていますが、そのうち美々川は8割以上の水を供給している母なる川です。道内で最も開発が進んでいる地域でありながら原始河川としての姿を残し、あちこちに湧水を持つ地下水が作り上げた川です。千歳市駒里にある源流部の湧水は、まことに素晴らしいものです。地下水から川が始まり、湿原の中を蛇行し、生き物の宝庫ウトナイ湖につながるこの1セットの自然は、広大な石狩低地帯においても唯一ここだけとなってしまいました。

ウトナイ湖は日本初のサンクチュアリ
 こうした素晴らしい自然環境を保全していこうと、日本野鳥の会が1979年に日本で初めて苫小牧市などの協力を得てウトナイ湖をサンクチュアリに指定しました。1981年にオープンしたネイチャーセンターは、全国からの浄財1億円と多くのボランティアの活動によって出来ました。サンクチュアリは、自然環境の保護と環境教育を目的とした地域の事で、ウトナイ湖および周辺の湿原約500ヘクタールが指定されています。ネイチャーセンターを中心にネイチャートレイル(自然観察路)、観察小屋などがあり常駐のレンジャーやボランティアがご案内をしています。
 そして、ウトナイ湖には年間30万人ほどの市民が訪れ、憩の場にもなっています。

美々川、ウトナイ湖の生態系が破壊される
 千歳川放水路は、美々川源流部を破壊して海面か1~3mまで堀込み、美々川、ウトナイ湖に平行してかなり低いところを通ります。それによって美々川、ウトナイ湖に供給されている地下水が放水路に抜けてしまうことが心配されます。この一帯は湿原地帯であるとともに水はけの良い火山灰地帯でもあります。湿原が乾燥してしまえば、植性は変わりそこに住む野鳥や昆虫たちに計り知れない悪影響が予測され生態系は破壊されます。北海道開発庁では、堰の建設や地下水のポンプアップ、地下サイホンなど土木工学的な保全策を検討していますが、どれも不十分なものばかりで話しになりません。

この文章は大畑孝二氏のご厚意により掲載したもので、著作権は大畑孝二氏が保有します。
著作者に無断の転載は禁じます。


ウトナイ湖サンクチュアリ前の大畑氏

大畑孝二(おおはた・こうじ)

日本野鳥の会ウトナイ湖サンクチュアリのチーフレンジャーとして12年間過ごした苫小牧を、1995年8月いっぱいで離れ、同年9月から石川県加賀市の鴨池観察館のチーフレンジャーとして活動中。
  ウトナイ湖やその源流の美々川周辺、野鳥などに重大な影響が心配される千歳川放水路計画には、当初から先頭に立って計画反対を訴えてきた。岐阜県瑞浪市生まれ。

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